腰の痛み~代表的な疾患~
急性腰痛症
(いわゆるぎっくり腰)
くしゃみや急激な動作、特にひねり動作にて急に腰痛が出ることがあります。
腰の後ろの椎間関節の痛みや腰の支える筋肉の痛み、椎間板の痛みなどが考えられます。
通常は1~2週間程度で改善することが一般的です。
治療
痛み止めの飲み薬やコルセット、筋肉注射、ブロック注射などを行います。
腰椎椎間板ヘルニア
骨と骨の間の椎間板が飛び出して近くにある神経を圧迫する事で腰痛や下肢痛が出る病気です。
10歳台後半~50歳にかけて活動性の高い人に起こりやすくなります。
症状
腰痛と片側の足の痛みです。運動や労働にて増悪し、安静にて軽減する傾向があります。
症状は急性の場合と慢性的にゆっくり起こる場合があります。
急性の場合は、最初は腰痛だけでも、数日経過した後に下肢痛を伴うことがあります。
下肢の症状は、圧迫される場所や程度によりさまざまで下肢に広がる強い痛みやしびれ、筋力低下などがあります。
診断
腰痛や下肢痛の痛み方や場所を確認しながら診察(押さえて痛む場所や神経に関する検査)にて調べていきます。
X線(レントゲン)にてすべり症や腫瘍などの他の病気を除外します。
ヘルニアの確定はMRIにて行います。MRIを撮っても治療が変わるわけではありませんので必要に応じて検査を行います。
治療
脱出した遊離したヘルニアは3か月~半年で吸収され(小さくなる)症状が改善する事が期待できます。
以下の治療を頑張ってみましょう。
安静 痛みに応じて無理をしないようにする事が重要です。
過度に腰をかがめたり、重たいものを持つことは控えてください。
痛みが軽減したら、可能な範囲で日常生活を送るように心がけてください。
内服 まずは一般的な解熱鎮痛剤を使用しながら効果がみられなければ、神経痛に効果がある(整形外科学会のガイドラインで勧められています)を使用しますのでご相談ください。
ブロック注射
硬膜外ブロックはヘルニアや神経周囲に薬液を注入し痛みの軽減を図ります。
神経根ブロックはX線で確認しながら神経根に直接針を刺して薬液を注入します。
リハビリ
理学療法士によるリハビリでは、筋肉トレやストレッチにて、筋肉のバランスを整えながら腰を安定化させて、腰痛の改善を図ります。
コルセット
腰を安定化する事で腰痛や下肢痛の改善が期待できます。
以上のような保存治療を行っても症状が改善しない場合や膀胱直腸障害(排尿や排便が困難になったり失禁をする場合)、下肢の筋力低下が出現した場合は手術をする事があります。
腰部脊柱管狭窄症
神経の通り道である脊柱管が加齢とともに狭くなり、腰痛や下肢痛を出す病気です。
症状
特徴的な症状は下肢の間欠性跛行です。
それは歩行により下肢が痛くなり、歩けなくなります。しゃがみ込んだり、腰をかがめたりする事で下肢に出現した症状が速やかに消失し再び歩き始める事が出来ます。
腰を伸ばすと神経の通り道である脊柱管が狭くなり、かがめると広くなるためです。
平地を歩くと下肢痛が出ますが、スーパーでカートを押しながら歩いたり、エアロバイクなどの前傾姿勢で歩くと症状が出にくくなります。
病気は圧迫の場所や症状などから馬尾型と神経根型、混合型の3つに大別されます。
馬尾型の症状は下肢や臀部、会陰部の知覚鈍麻(感覚が鈍い)やしびれがあり、歩行にて下肢の脱力や灼熱感、ほてりといった症状が出現します。残尿感や尿意の切迫感といった膀胱直腸障害を伴う場合もあります。
神経根症状は下肢痛や臀部痛が特徴的です。
片側性(片足のみ)の症状が多くみられますが、時に両側の痛みが出る場合があります。
右足だった痛みが、軽減したと思ったらしばらくすると左足に出たりする事もあります。
混合型は上記の馬尾型と神経根型が混在した症状を呈します。
診断
前述した特徴的な間欠性跛行がみられます。
同じような症状を出す病気として下肢の閉塞性動脈硬化症(下肢の動脈の血流が悪くなり間欠性跛行が出ます)がありますので、下肢の動脈が触れるかどうかは診察でみる必要があります。
X線(レントゲン)にて腰の変形が強い場合や腰のすべり症がみられる場合は腰の神経の通り道である脊柱管が狭くなっていることが予測されます。
MRIでは神経や骨の状態、椎間板などが把握できる有効な検査です。
治療
内服薬
神経の通り道が狭くなっていますので神経の血流障害も伴っています。血管を広げて神経の血流を改善する薬があります。次に痛み止めは神経症状に有効な飲み薬(整形外科学会のガイドラインで推奨されています)もありますのでご相談ください。ブロック治療
神経根型に関してはブロック治療も有効です。
硬膜外ブロックは神経周囲に薬液を注入し神経の痛みの軽減を図ります。
神経根ブロックはX線で確認しながら神経根に直接針を刺して薬液を注入します。
リハビリ
理学療法士によるリハビリでは、筋肉トレやストレッチにて、筋肉のバランスを整えながら腰を安定化させて、腰の伸展(神経の通り道が狭くなります)を予防し症状が出にくくするように治療を行います。
コルセット
コルセットにて腰を安定化する事で腰痛や下肢痛の改善が期待できます。
以上の症状でも改善しない場合や膀胱直腸障害(排尿や排便が困難になったり失禁をする)が出現した際には手術治療を行います。
神経の通り道を広げる手術が基本となりますが、場合によっては(腰がグラグラして不安定になっている場合など)は金具を使用し固定を併用する場合もあります。
腰椎圧迫骨折
症状
腰の前側の椎体がつぶれて強い腰痛が出現します。一般的には安静時痛はありませんが、ベットからの寝起きや前屈動作(靴下を履くなどの前かがみ)の際に強い痛みが出ます。
安定型(つぶれ方が軽くて神経の症状を出さない)と不安定型(神経の通り道である脊柱管に骨折が及んで神経の症状を出す場合)がありますが、不安定型は注意が必要です。
若い人は階段や高所から転落するようなケガで起こりますが、高齢者は骨がもろい(骨粗しょう症)がベースにあるため転倒しなくても骨折を起こすことがあります(いつの間にか骨折)。
治療
痛み止めを飲みながら、コルセット(骨折用の硬めのコルセット)を装着します。定期的にX線でチェックを行います。(骨がつぶれていないか、骨が癒合しているかなど) コルセットは最低でも2~3か月は装着する必要があります。
通常は、3か月程度で骨が癒合しますが、骨粗しょう症が強い方や骨の折れる場所(背中と腰の移行部では骨が癒合しにくい)次第では骨が癒合せず、痛みが長引く場合があります。
骨粗しょう症がある場合は、異なる場所が次々と折れる(骨折の連鎖)場合がありますので、骨粗しょう症の治療(飲み薬や注射)をお勧めします。
腰椎分離症
症状
症状は腰痛です。スポーツ活動をするお子さんが腰痛を訴える場合は腰椎分離症を疑う必要があります。特に2週間以上、腰痛を訴える場合は小中学生で約40~50%、高校生では約30%が腰椎分離症であったという報告もあります。
腰の伸展(腰を反る)や回旋(ねじる)動作で痛くなる事が一般的です。
原因と病態
腰椎分離症は腰椎の疲労骨折です。ほどんどが10代の発育期に発生します。男性の8%、女性の4%に発生するというデータがあります。
下肢の大腿四頭筋やハムストリング、腸腰筋や胸郭・肩甲骨などのタイトネスによる可動域制限を伴っていることが多くみられます。
そのために腰の負担がかかり疲労骨折を起こしていると考えられています。
診断
腰の伸展(腰を反らす動作)や回旋(捻じる動作)で痛みが生じるかを確認します。90%は第5腰椎に発生しますので第5腰椎の棘突起に圧痛がみられる事もあります。
X線(レントゲン)にて分離部が欠けてみられる事もあります。
MRIにて分離部の確認や炎症所見(骨髄浮腫)や有無をチェックします。 CTでも疲労骨折部が確認できます。
予防と治療
小学生や中学生の低学年は分離部が離れてすべり症へ移行する場合がありますので積極的に硬性のコルセットを装着することをお勧めします。分離症には病期(初期、進行期、末期)があります。
初期と進行期は保存治療により高い骨癒合率が期待できるため、基本的にはスポーツ活動を一時休止して硬性コルセットを装着し患部を安静にし骨癒合を目指します。硬性コルセットを装着する期間は初期では3か月、進行期では3~6か月間くらい必要になる場合があります。
末期はすでに疲労骨折がつきにくい状態のため、骨癒合は期待できない状態にあるため、軟性コルセットや痛み止め、リハビリにて痛みの軽減を図ります。
部活の状況(大事な試合が近いか)や発症の時期(年齢)に応じて治療内容は変わってきます。
時に分離部のブロック(注射)も有効です。 早期復帰と再発予防のためにリハビリは重要です。
下肢の筋肉や股関節、肩甲骨・胸郭などの体の硬さがあるお子さんが多いため、リハビリにてストレッチや体幹筋のトレーニングを行いながらスポーツの復帰を目指します。