肩の痛み~代表的な疾患~
五十肩(肩関節周囲炎)
症状
肩関節が痛み、関節の動きが悪くなります(更衣動作、手を伸ばして前の物を取ることが不自由になることがあります)
夜中の痛みが強くなり、目を覚ます事があります。
原因と病態
中年以降、特に50歳前後に多くみられます。
肩関節の周囲に組織(関節包や上腕二頭筋長頭)に炎症が起きることが主な原因と考えられています。
炎症期(夜間痛などの安静時痛や動かした際の痛みが強い時期)、拘縮期(痛みは軽減するが肩が硬くなる)、回復期(肩の硬さが取れてくる)の3つの時期を経て半年から1年かけて治癒します。
診断
肩関節の動きはあらゆる方向(前や横、後ろ)に制限され、上げ切った際に痛いのが特徴です。
これらは、X線(レントゲン)撮影、エコー、MRI、超音波検査などで他の疾患を除外する必要があります。
予防と治療
自然に治ることもありますが、放置すると悪化し、関節が癒着して動かなくなることもあります。
上述の3つの時期(炎症期・拘縮期・回復期)を経て、通常は半年から1年かけて治癒します。
痛みが強い炎症期には、三角巾などで安静を計りながら、消炎鎮痛剤の内服、ステロイドの注射などを行います。(急性期は痛い動作を控えることが最も重要です。重労働の仕事をされる方は、痛みが出ないように動きを制限する事をお勧めします。(デスクワークの方も椅子やテーブルの位置を工夫する事で肩の負担を減らせます)
拘縮期(痛みが軽減し、肩が硬くなる)は理学療法士によるリハビリをすることで早く治ることが期待できます。
早期に痛みを取りたい方やこれらの方法で改善しない場合、サイレントマニプレーション(肩周囲の痛みを麻酔で取り、癒着を徒手的に解除します)、手術(関節鏡など)を勧めることもあります。
肩腱板断裂
症状
肩痛の原因としては多くみられる疾患です。 肩の運動時痛(手を上げる動作や後ろに手を回す動作)と可動域の制限を認めます。症状が強い時には安静時痛(じっとしていても痛い)、夜間痛(寝ている時に目を覚ます)を伴うことがあります。
肩関節の拘縮(肩関節が硬くなる)を伴う50肩(肩関節周囲炎)と比べて、関節の拘縮はみられない場合が多いですが、肩を後ろに回すなどの動きにて強い痛みを訴えます。 完全な断裂では腕が上がらない事もありますが、多くは腕を上がることが可能です。
しかし、物を持って腕を上げる動作をすると物を支えられない事があります。(ドライヤーで髪を乾かす動作などが長く出来ないなど) 60歳代は20%、70歳代では30%、80歳以上では40%の方に断裂がみられます。
比較的多い疾患ですが、腱板断裂があっても約半分は症状を出さない(無症候性)と言われています。
原因と病態
腱板はインナーマッスルで、棘上筋と棘下筋、肩甲下筋、小円筋の4つで構成されています。棘上筋断裂が一番多くみられます。血行が乏しいため年齢とともに変性し傷みやすくなります。
40歳以上に多くみられます。中年以上ではわずかなケガでも損傷しますが、若年者の場合は大きなケガや野球などの活発な動作に繰り返しで起こります。
断裂型には、完全断裂と不全断裂があります。
60歳台以降では、腱板の変性を基盤とした完全断裂が多く、10~30歳代のスポーツに関連したものでは関節面の不全断裂が多くみられます。
診断
診察では、棘上筋や棘下筋の筋委縮がみられる場合があります。患者さんに自分で腕を上げてもらった際に肩の外側に音(ジョリジョリなどの異音)を認めることがあります。
棘上筋や棘下筋、肩甲下筋などの筋力低下の有無を評価します。 肩の捻じる動きで痛みを誘発するテスト(インピンジメントサイン)を行い、痛みの有無を評価します。 X線では上腕骨頭や肩峰、肩鎖関節の変性や軟骨の摩耗などの評価を行います。
腱板が完全断裂をしている時に、上腕骨頭と肩峰の骨の間の距離が狭くなっている場合もあります。
エコーでは腱板断裂の評価だけでなく、上腕二頭筋長頭腱の腫脹や肩峰下滑液包の水腫 なども確認できます。
以上で確認できない場合に、MRIを行う場合があります。
治療
保存療法
転倒などのケガや急性期の痛みが強い場合は、三角巾にて固定し痛みを伴う動作を極力控える必要があります。ただし、長期間の固定は拘縮の原因になりますので注意が必要です。
断裂部が治癒することはありませんが、70~80%は保存療法(手術をしない治療)で軽快します。
内服の治療は腱板や肩峰下滑液包の炎症を抑える薬や夜間痛を中心とした神経性の痛みを抑える薬を使用します。
痛みが軽減した場合は、痛み止めを中止する事が十分可能です。
注射療法では、夜間痛があると、ステロイドを肩峰下滑液包内に注射しますが、強い 痛みが軽減した場合はヒアルロン酸の注射に変えます。 以上の治療で急性期の強い痛みが軽減したら、リハビリを行っていきます。
理学療法士によるリハビリは重要です。リハビリでは、残っている腱板(切れていない)を最大限働かせることで、正常に近い肩関節の動きへ誘導します。
肩甲骨の硬さを改善する事で、上腕骨と肩甲骨の連動運動を引き出します。すると肩の痛みが改善することが期待できます。
手術療法
保存療法で肩関節痛が取れない場合、活動性が高い人、若い人(加齢とともに腱板の損傷した範囲が拡大すると言われているため)は、手術を行ないます。断裂した腱板の脂肪変性(弱くなる)が進行すると縫合した際に再断裂しやすくなるため、漫然と保存治療を長引かせない事も重要です。 手術は、関節鏡視下で腱板を縫合する手術を行います。
手術後の再断裂もみられるため、注意を払いながら、約半年間~1年のリハビリを行います。
石灰沈着性腱板炎
(石灰性腱炎)
症状
石灰が肩関節の腱板周囲に沈着する事により、肩の関節痛と運動制限を起こします。急性発症では激痛のため、夜間痛を伴い、肩が動かせない事があります。
原因と病態
40~50歳代の女性に多くみられます。 腱板の脆弱部に小さな外傷性変化が生じてそこにハイドロキシアパタイトが沈着する事で起こると言われています。石灰沈着は棘上筋や肩甲下筋などの腱板のあらゆる腱に生じますが、棘上筋での発症が最も多くみられます。
診断
急性期(突然起こった場合)は、限局した圧痛がみられ、運動時痛が強い(腕が上がらない)状態です。慢性期は硬くなった石灰で腱板が厚くなり、肩甲骨と衝突する現象がみられ痛みを伴います。(急性期と比べると痛み自体は軽度です) X線(レントゲン)撮影によって腱板部分に石灰沈着を認めます。
エコーでは発生した部位に加えて、石灰が急性期の柔らかいペースト状か、慢性期の硬い状態かを評価できます。
保存治療
痛みが強い場合は三角巾を用いて安静にします。 湿布や痛み止めの内服にて炎症を抑える事で痛みが軽くなることが期待できます。急性期では、エコー下で石灰の部位に針を刺して直接、石灰を吸引した後にステロイドを注入することで劇的に痛みが改善する場合があります。急性期では石灰がペーストに液状になっていますが、慢性期では石灰が硬くなり針を刺しても吸引できない場合があります。
ほとんどの場合、上記に治療で改善しますが、慢性型では、石灰が硬くなって腱板が厚みを増して肩甲骨を衝突し痛みが長引く場合があります。その際は鏡視下で切除する場合があります。