首の痛み~代表的な疾患~
頚椎症性脊髄症
症状
ボタンのはめ外し、箸の使用、字を書く動作が困難になったり、歩行で脚がもつれるような感じや階段で手すりを持つようになったりという症状が出ます。
手足のしびれも出てきます。 比較的若年の方であれば、走りにくくなるなどの軽度の症状を自覚できますが、高齢者では転倒しやすくなり年齢的な筋力低下との鑑別が必要です
原因と病態
加齢変化による頚椎症(椎間板の膨隆・骨のとげの形成)の変化によって、頚椎の脊柱管の中にある脊髄が圧迫されて症状が出ます。
診断
症状と四肢の反射の亢進などの診察所見があり、X線(レントゲン)所見で頚椎症性変化を認め、MRIで脊髄の圧迫を認めることで診断します。 X線やMRIで頸椎の変形や脊髄の圧迫が認められても、症状がない場合は治療の必要はありません。
脳や神経内科の病気の一部は症状がよく似ている場合がありますので、注意が必要です。
予防と治療
元々、神経の通り道(脊柱管)が狭い人は、転倒などの軽微な外傷で四肢麻痺(脊髄損傷)になる可能性が存在しますので、転倒しないように注意します。
手足の軽い痺れや痛みであれば、飲み薬で軽減する事が期待できますが、日常生活に支障があるような手指巧緻運動障害(字が書きにくい、箸が持てない、コップを落とすなどの症状)がみられたり、階段昇降に手すりが必要となれば、手術的治療をお勧めします。
頚椎椎間板ヘルニア
症状
首や肩から背中、腕に痛みやしびれが出たり(神経根の障害)、箸が使いにくくなったり、ボタンがかけづらくなったりします。
また、足のもつれ、歩行障害が出ることもあります(脊髄の障害)。
首を反らす動作(歯医者さんでの治療や美容室での洗髪など)で症状が増悪することがあります。
原因と病態
椎間板ヘルニアの原因 背骨をつなぐクッションの役割をしている椎間板が主に加齢変化により後方に飛び出すことによって起こります。
30~50歳代に多く、しばしば誘因なく発症します。
悪い姿勢での仕事やスポーツなどが誘因になることもあります。
飛び出す場所により、神経根の圧迫、脊髄の圧迫あるいは両者の圧迫が生じます。
診断
頸椎を後方や斜め後方へそらせると腕や手に痛み、しびれが出現(増強)します。
その他、手足の感覚障害や筋力低下、手足の腱反射の異常などで診断します。
腕の痛みとしびれが強い時には、手を頭に乗せる動作で痛みが軽減する事が特徴です。(神経が緩むため)
MRIで神経根や脊髄の圧迫を確認し診断を確定します。
予防と治療
痛みが強い時期には、首の安静保持を心掛け、頸椎カラー装具を用いることもあります。
鎮痛消炎剤の服用(飲み薬はたくさんの種類がありますが、ご自身に合った薬を探す事で痛みが減ることが十分期待できます)、神経ブロック(エコー下で神経を確認しながら行います)などで痛みをやわらげます 症状に応じて牽引療法を行ったり、運動療法を行ったりすることもあります。
これらの方法で症状の改善がなく、上肢・下肢の筋力の低下が持続する場合、歩行障害・排尿障害などを伴う場合は手術的治療を選択することもあります。その際は専門医をご紹介します。
外傷性頚部症候群
頚椎の症状
基本的には首~肩の痛みが中心です。
しかし頭痛やめまい、手のしびれ、倦怠感や集中力の低下などの症状を伴う場合があります。
原因と病態
受傷時に頭を支えている首に負担がかかる事で筋緊張が生じますが、衝撃の大きさによっては筋の部分断裂や靭帯の損傷を伴います。
受傷後しばらくの間(1~3か月)は首~肩の痛みが生じます。
首の痛みのために首を動かさない患者さんが多いですが、それはかえって首の筋肉が固くなり(頑固な肩こり)痛みが長引く結果となる事があります。頚椎のカラーを装着した場合はなるべく短い期間に控える事が重要です。
診断
X線・MRIとも年齢に応じた変性変化を認める事がありますが、症状と画像の所見が相関しなければ問題はありません。(偶然、ヘルニアを認めることもありますが、それが症状を出しているとは限りません)
しかし骨折や脱臼がないことは確認が必要です。
予防と治療
骨折や脱臼がなければ、受傷後2~3週の安静の後は頚椎を動かすことが痛みの長期化の予防となります。
安静期間はできるだけ短い方がよいでしょう。
慢性期には安静や生活制限は行わず、ストレッチを中心とした体操をしっかり行う事が大事です。
3か月以上経過した痛みは慢性疼痛といわれ、慢性疼痛に効果がみらえる飲み薬を服用した方が良い場合がありますので医師にご相談ください。
胸郭出口症候群
症状
車の運転や物干しの時のように腕を挙げる動作で上肢のしびれや肩や腕、肩甲骨周囲の痛みが生じます。また、前腕尺側と手の小指側に沿った痛み、しびれ感、ビリビリ感などの感覚障害に加え、手の握力低下と細かい動作がしにくいなどの運動麻痺の症状があります。
原因と病態
腕や肩甲帯の運動や感覚を支配する腕神経叢(頸椎から腕に向かう神経)と鎖骨下動脈は、①前斜角筋と中斜角筋の間、②鎖骨と第1肋骨の間の肋鎖間隙、③小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後方を走行しますが、それぞれの部位で圧迫される可能性があります。その圧迫部位によって、斜角筋症候群、肋鎖症候群、小胸筋症候群(過外転症候群)と呼ばれますが、総称して胸郭出口症候群と言います。胸郭出口症候群は神経障害と血流障害に基づく上肢痛、上肢のしびれ、頚肩腕痛(けいけんわんつう)を生じる疾患の一つです。
症状と病態
診断
なで肩の女性や、重いものを持ち運ぶ労働者で、前述の症状があれば、胸郭出口症候群の可能性があります。首の前側(圧迫されている神経の部位)を押すと首の痛みや上肢に放散する痛みを生じます。
座位で両肩関節90度外転、90度外旋、肘90度屈曲位をとらせると、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなり、手の血行がなくなり白くなります(ライト テスト陽性)。
また、同じ肢位で両手の指を3分間屈伸させると、手指のしびれ、前腕のだるさのため持続ができず、途中で腕を降ろしてしまいます(ルース テスト陽性)。
X線やMRIで診断することは難しい病気のため、同様な症状を呈する頚椎椎間板ヘルニア、肘部管症候群、脊髄空洞症、脊髄腫瘍、手根管症候群などの疾患を除外できれば、胸郭出口症候群の可能性が高くなります。
予防と治療
予防と保存療法が大切です。症状を悪化させる上肢を挙上する動作や、重量物を持ち上げるような運動や労働、リュックサックで重いものを担ぐようなことを避けてください。
治療は、腕や肩甲帯を吊り上げている僧帽筋や肩甲挙筋のリハビリ(理学療法士が硬くなった筋肉のストレッチや姿勢の不良を改善します)が効果的です。
飲み薬(筋肉の緊張を和らげる薬や神経の痛みを軽減する薬)などの投与も行います。