膝の痛み~代表的な疾患~
変形性膝関節症
症状
主な症状は動いた時の膝の痛みです。(基本的には動いていない時には痛みがなく、歩いた時だけ痛い病気ですが、悪くなると安静時の痛みも伴います) 歩行や起立動作、しゃがみ込み、正座、階段昇降などの日常生活に支障が出て、生活の質が下がる病気です。
初期では立ち上がり、歩きはじめ(starting pain)など動作の開始時のみに痛み、休めば痛みがとれます。
中期なると正座や階段の昇降が困難となり、末期になると、安静時にも痛みがとれず、変形が目立ち、膝がピンと伸びず歩行が困難になります。
原因と病態
原因は関節軟骨の経年的な劣化により弾性を失い軟骨がすり減り、骨が変形してきます。
ほとんどの方(90%)が内側に病変があります。 圧倒的に女性に多く、加齢とともに増加します。
40歳代で出現傾向を認め、60歳代では50%前後、70歳以上では70%に達します。 歩行時に膝にかかる負担は体重の3倍に及ぶと報告されており、肥満、生活習慣(重たいものをもったり、正座の習慣など)などでも悪化します。
O脚も関与しています。O脚になるとより内側に負担がかかるようになり、変形が進行するという悪循環に陥ります。
また骨折、靱帯や半月板損傷などの外傷、化膿性関節炎などの感染の後遺症として発症することがあります。
診断
診察で膝の内側の圧痛(関節の内側の隙間~大腿骨の内側にかけて)がみられます。
関節の動きの範囲が徐々に悪くなります。(進行すると、膝の曲がりと伸びが悪くなります)
関節の腫れがみられます。(穿刺をすると黄色で透明ですが、時に関節軟骨の破片が浮遊しています)
時に膝の不安定性、横振れ(グラグラ)が認められ、この場合は内側の負担が増加し膝痛も出やすくなります。
X線(レントゲン)検査で診断します。 立った状態で撮影する(ローゼンバーグ撮影)の正面の画像が重要で関節軟骨のすり減りを鋭敏に表します。
X線ではKellgren-Lowrence分類(grade1~4)で評価します。 MRI検査を行う場合もあります。
変形性膝関節症の予防と治療
予防(日常生活での注意点)
- ふとももの前(大腿四頭筋)や股関節周囲(中殿筋や内転筋)の筋肉を鍛える。
- 正座や床の生活をさけ、なるべく椅子とテーブルの生活をする
- 肥満であれば減量する。
治療
- 痛み止めの内服薬を適切に使用します。
痛み止めには、①痛い時のみ内服する(頓服)痛み止め(一般的な痛み止めでNSAIDSといいます)や②慢性的に痛い時(3か月以上痛い時は慢性疼痛という診断となります)に有効な痛み止めがあります。
慢性的に痛い場合は、整形外科学会の推奨するガイドラインに沿った薬を継続して内服すると痛みが軽減し生活しやすくなる事が期待できます。痛みが軽減した際は中止する事も十分可能です。 - 外用薬(通常の湿布に加えて、痛み止めの成分が入った強い湿布もあります)
- 膝関節内にヒアルロン酸の注射などをします。(炎症を鎮静化させて将来的な軟骨のすり減りを抑える効果が期待できます)特に、初期の変形性膝関節症には効果を発揮します。
- 大腿四頭筋強化訓練、関節可動域改善訓練などのリハビリテーションを行うことで痛みが軽減し、階段昇降もしやすくなる事が期待できます。
ご自身で運動する場合は、水中での歩行やエアロバイクが特 にお勧めです。 - 足底板や膝装具を作成することもあります。(足底板はO脚を矯正し、装具は膝のグラグラを改善し安定を図ります)
- 再生医療(自由診療となります) ご自身の血液を遠心分離にかけて血小板由来の成長因子を抽出し、それを後日、関節に注射することで炎症と痛みが減ることが期待できます。
今まで述べた保存的治療(手術をしない)で効果がみられない方で、どうしても手術をしたくない方には有効な手段です。
初期の変形性関節症の方が効果が高いと報告されています。 - このような治療でも治らない場合は手術治療も検討します。
高位脛骨骨切り術
内側もしくは外側の片側だけが悪い(重度の変形性関節症ではない)方に行います。
骨を切って変形を矯正し関節を温存するため、比較的若くて(40代~60代)、 スポーツ(テニスやランニング、登山などの激しいスポーツ)や重労働をする方に行います。
人工膝関節置換術
単顆型(内側もしくは外側のどちらか)と両顆型があります。
両顆型は内側や外側(両側)、膝蓋骨の関節などの変形が強い方に行います。
正座やしゃがみ込み、激しい運動(ランニングやテニスなど)は出来ませんが、日常生活は制限なく送って頂けます。
前十字靭帯損傷
バスケットボールなどでジャンプの着地の際や走っていて方向転換をする際に受傷することが多くみられます。
靭帯損傷の際に半月板損傷を伴うこともあります(40~60%の頻度)。
受傷時はブチっという断裂音を自覚することもあります。通常は受傷直後のスポーツの継続は困難です。
数時間後に関節が腫れて関節内に血液が溜まります。
診断
上記の病歴に加えて、関節の腫脹、徒手検査(靭帯損傷により膝が不安定となり脛骨が前に大きく出てきます)
画像検査
脛骨の関節包付着部の外側前方の剥離骨折を認めることがあります。
MRIにて前十字靭帯の断裂や大腿骨・脛骨外側顆の陥没や骨挫傷、半月板損傷など認めます。
治療
あまりスポーツをしない中高年者であれば装具や筋トレなどで経過をみることがあります。
一方、スポーツ復帰を望む若い方は手術をする事が一般的です。手術をしないと膝の不安定性(グラグラする)が残存するため将来的に半月板損傷を引き起こしたり、変形性膝関節症に移行する可能性があるためです。
関節鏡を用いながら、自家腱(骨付きの膝蓋靭帯、半腱様筋など)を使用し、元々の前十字靭帯の走行に沿って再建をします。
再建した靭帯は手術後に一旦強度が低下する(弱くなり再断裂しやすい)時期がありますので、理学療法士によるリハビリをしながら7~9か月以降のスポーツ復帰を目指すのが一般的です。
半月板損傷
症状
半月板は膝関節の大腿骨と脛骨の間にある軟骨で、荷重の分散や関節安定化、関節運動の潤滑などの働きがあります。
また歩行時には膝に体重の約3倍の重さがかかるといわれており、荷重の負担を軽減する働きがあります。
これが損傷すると、歩行時に痛みや引っ掛かり、曲げた時の痛みを生じます。
また放置すると将来的に変形性膝関節症へ移行する場合があります。
原因
受傷原因が明らかなものとそうでないものに分かれます。
外傷性(ケガ)のものはスポーツや転倒、階段での足の踏み外しなどで膝を捻った場合にみられます。
原因がはっきりしない場合は小児の円盤状半月(生まれつき半月板が大きい場合)や40歳以上の半月板の変性(半月板が加齢で傷んでいる)を基盤とした断裂が多くみられます。
病態
半月板は内側がC型、外側がO型の形態をしており、内側より外側の方が、動きが大きい特徴があります。したがって内側にストレスがかかりやすいため(動かないため固定されているイメージです)内側の損傷が多くみられます。
大腿骨と脛骨に挟まれて捻じる事で損傷します。内側の中央から後方にかけての損傷が多く、損傷の形も様々で変性断裂(加齢的)、水平断裂、縦断裂、横断裂、放射状断裂、バケツ柄断裂に分類されます。
損傷の状態によっては放置すると、さらに関節軟骨を傷めることもあります。
診断
病歴(転倒や膝を捻じったなどのケガがあるか)、診察(McmurrayテストやApleyテスト、関節穿刺をして関節液に血液が含まれているか)から診断可能です。単純X線(レントゲン)や診察で半月損傷を疑えばMRI検査を行う場合があります。
予防と治療
痛みが強い場合は負担を減らす目的で松葉杖を使用します。
特に正座やしゃがみ込み、あぐらや横すわりなどの床の生活を避けることが重要です。
理学療法士によるリハビリ
痛みが長く続いている場合に関節が硬くなったり、筋肉の過緊張がみられる事があります。筋力の低下がしている場合が多くみられるため、筋力の回復などをリハビリで行います。
抗炎症薬の処方
関節水腫などの炎症がみられる場合は痛み止めを飲むことで炎症を抑え、痛みが軽減する事も期待できます。
関節注射
ヒアルロン酸やステロイドは炎症を抑える効果がありますので複数回行う事で症状の改善が期待できます。
一定期間(3か月程度)上記の治療を行っても改善しない場合には手術を行います。
半月板は荷重を分散する膝の負担を軽減する役目があるため、可能な限り半月板を縫合し温存する(切除しない)事が理想的です。
しかし、半月板は血流が豊富でないため(関節の辺縁の一部にしか血流がない)、癒合しにくい組織で血流が悪い部分では癒合が期待できません。したがって損傷の形態や損傷の場所、スポーツレベル、年齢などで手術法が変わってきます。
手術法には切除術(損傷した部分を切り取る)と縫合術(損傷した部分を縫い合わせる)の2種類があり、関節鏡を使った鏡視下手術を行います。
前十字靭帯損傷などの靭帯損傷を伴った半月板損傷は靭帯の再建をするのが原則です。
特発性(原因不明)
膝の骨壊死
原因は不明ですが、60歳以降に突然、膝の内側(大腿骨内側顆)に壊死(骨脆弱性骨折)を起こし膝が痛くなる病気です。
歩く時の痛みが強いのが特徴ですが、夜に寝ている時の痛み(夜間痛)も出る場合があります。
診断
早期にはX線で変化がみられませんが、経時的に透亮像や硬化像、陥没像が認められます。
MRIでは早期から病巣を確認出来ます。
治療
壊死は病気の最初に壊死の範囲(広さ)が決まりますので、時間とともに壊死の範囲が拡大したり、再発する事はありません。
適宜、痛み止めの内服やステロイドなどの関節注射を行います。
壊死範囲が小さい場合は、荷重の制限(杖や膝装具、足底板)を行います。
徐々に壊死した骨が硬くなり痛みも軽減してきます。
壊死範囲が大きい場合は壊死した骨が陥没し将来的に変形性関節症(軟骨がすり減る病気)へ移行し手術が必要になる場合があります。
手術治療は、骨切り(骨を切って壊死をした場所に負担がかからないようにします)や人工関節置換術(骨の表面を切って人工の金具と入れ替える)を行います。
ランナー膝(腸脛靭帯炎)
ランナーに良くみられる病気で、膝の外側に痛みが出ます。
通常、走り始めでは痛みは出ませんが、長く走る事で痛くなります。
膝の外側の大腿骨外側顆と腸脛靭帯の摩擦によって生じます。
膝の内反(O脚)や大腿の外側の筋が硬い事などが原因です。
治療
まずは痛みが出る動作(走ること)を控えてください。
理学療法士によるリハビリで硬くなった筋肉のストレッチやランニングのフォームを修正します。
足底板にて膝の内反を矯正する事で症状の軽減を図ります。
ジャンパー膝
バレーボールやバスケットボールなどでジャンプやランニングを繰り返すことで膝蓋骨周辺の伸展機構(ジャンプするのに必要な大腿四頭筋や膝蓋腱)に負担がかかり痛みを出す病気です。
大腿四頭筋と膝蓋骨の境界部、膝蓋腱と大腿骨の境界部を押すと痛みを認めます。
治療
保存的治療を行います(手術をしない方針)。
運動後のアイシングやストレッチ(大腿四頭筋を中心に)、理学療法士によるリハビリが有効です。
オスグット病
脛骨結節(お皿の下の骨)が徐々に突出してきて、痛くなります。
時には、赤く腫れたり、熱を持ったりします。
休んでいると痛みが無くなりますが、スポーツを始めると痛みが再発します。
最初は運動後の痛みが中心ですが、増悪すると運動時痛が強くなりスポーツの継続が困難となります。
発育期のスポーツ少年に起こりやすいのが特徴です。
原因と病態
10~15歳の成長期の子供が、跳躍やボールをけるスポーツをし過ぎると、発生します。
大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)の力は、膝蓋骨(お皿)を経由して膝を伸展させる力として働きます。
膝を伸ばす力の繰り返しにより、大腿四頭筋が膝蓋腱付着部を介して脛骨結節を牽引するために、脛骨結節の成長線に過剰な負荷がかかり成長軟骨部が剥離することで生じます。
診断
診断は特徴的な上記症状と同部位の圧痛が特徴的です。
X線では骨陰影の不整や剥離する小さな骨片がみられますが、長期に経過すると大きな骨片が認められるようになります
予防と治療
成長期の一過性の痛みが多く、成長が終了すると、痛みは軽減します。
痛みが強い時期はスポーツを控えることが大切です。
上記の症状を強くさせないためには、大腿四頭筋のストレッチングやアイシング、装具などを行い、痛みが強いときのみ、内服や湿布をします。
痛みがなくなればスポーツは可能です。
大腿四頭筋やハムストリングが硬くなると痛みが遷延しやすいため、コンディショニングを含めたリハビリをお勧めします。